いちれつならぶおほばこが
そのうつくしいスペイドから
すこしまがった葉柄まで
くっきり黒い影をおとし
月は右手の木立の上に
夜中をすぎて熟してゐる
萱野十里も終りになって
何かなまめく椈の木や
降るやうな虫のジロフォン
路はひとすじしらしらとして
椈の林にはいらうとする
(黒く寂しい香食類の探索者)
そこにもくもく月光を吸ふ
蒼くくすんだカステラは
たぶんみんなはいまつだらう
しかも今夜の何といふ明るさだらう
北いっぱいの星ぞらに
ぎざぎざ黒い嶺線が
手にとるやうにうかんでゐる