一七九

   

   いちれつならぶおほばこが

   そのうつくしいスペイドから

   すこしまがった葉柄まで

   くっきり黒い影をおとし

   月は右手の木立の上に

   夜中をすぎて熟してゐる

   萱野十里も終りになって

   何かなまめく椈の木や

   降るやうな虫のジロフォン

   路はひとすじしらしらとして

   椈の林にはいらうとする

       (黒く寂しい香食類の探索者)

   そこにもくもく月光を吸ふ

   蒼くくすんだカステラは

   たぶんみんなはいまつだらう

   しかも今夜の何といふ明るさだらう

   北いっぱいの星ぞらに

   ぎざぎざ黒い嶺線が

   手にとるやうにうかんでゐる

 

 


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