七三

     有明

                  一九二四、四、二〇、

   

   あけがたになり

   風のモナドがひしめき

   東もけむりだしたので

   月は崇厳なパンの木の実にかはり

   その香気もまたよく凍らされて

   はなやかに錫いろのそらにかゝれば

   白い横雲の上には

   ほろびた古い山彙の像が

   ねづみいろしてねむたくうかび

   ふたたび老いた北上川は

   それみづからの青くかすんだ野原のなかで

   支流を納めてわづかにひかり

   そこにゆふべの盛岡が

   アークライトの点綴や

   また町なみの氷燈の列

   ふく郁としてねむってゐる

   滅びる最后の極楽鳥が

   尾羽をひろげて息づくやうに

   かうかうとしてねむってゐる

   それこそここらの林や森や

   野原の草をつぎつぎに食べ

   代りに砂糖や木綿を出した

   やさしい化性の鳥であるが

      しかも変らぬ一つの愛を

      わたしはそこに誓はうとする

   やぶうぐひすがしきりになき

   のこりの雪があえかにひかる

 

 


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