一九二四、四、一九、
ひっそりとした丘のあひ
月のあかりのいまごろを
巨きなドロの木のしたで
いきなりはねあがるのは
原始の素朴な水きねである
ぼろぼろぼろぼろ青火を噴いて
きねはだんだん下りてくる
またはねあがる
きねといふより一つの舟だ
舟といふより一つのさじだ
さわしぎももう睡ったのに
そこらで鈴が鳴ってゐる
そこには一軒鍵なりをした家があって
鈴は睡った馬の胸に吊され
呼吸につれてふるえるのだ
きっと馬は足を折って
蓐草の上にかんばしく睡ってゐる
どこかで鈴とおんなじに啼く鳥がある
たとへばそれは青くおぼろな保護色だ
向ふの丘の影の方でも啼いてゐる
それからいくつもの月夜の峯を越えた遠くでは
風のやうに峡流も鳴ってゐる