六九

     路傍

                  一九二四、四、一九、

   四本のくらいからまつの梢に

   かがやかに春の月がかかり

   やなぎのはなや雲さびが

   しづかにそこをわたってゆく

     ……赤く塗られた鳥の卵と

       その影と……

   さはしぎももうひっこんだのに

   廐では鈴がかすかに鳴ってゐる

     ……この枯れ芝生なら

       暗さややはらかさや

       すっかり鳥のこころもちだ……

   鈴がかすかにまたひびくのは

   ねむってゐる馬の胸に吊るされ

   呼吸につれてふるえるのか

   きっと馬は足を折って

   蓐草の上にかんばしくねむってゐる

   わたくしもまたねむりたい

     ……誰かが馬盗人とまちがへられて

       腕にピストルを射込まれた……

   どこかで鈴とおんなじに啼く鳥がある

   たとへばそれは青くおぼろな保護色だ

   むかふの丘の陰影のなかでもないてゐる

   それからいくつもの月夜の峯を越えた遠くでは

   風のやうに峡流も鳴ってゐる

 

 


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