路傍
一九二四、四、一九、
四本のくらいからまつの梢に
かがやかに春の月がかかり
やなぎのはなや雲さびが
しづかにそこをわたってゆく
……赤く塗られた鳥の卵と
その影と……
さはしぎももうひっこんだのに
廐では鈴がかすかに鳴ってゐる
……この枯れ芝生なら
暗さややはらかさや
すっかり鳥のこころもちだ……
鈴がかすかにまたひびくのは
ねむってゐる馬の胸に吊るされ
呼吸につれてふるえるのか
きっと馬は足を折って
蓐草の上にかんばしくねむってゐる
わたくしもまたねむりたい
……誰かが馬盗人とまちがへられて
腕にピストルを射込まれた……
どこかで鈴とおんなじに啼く鳥がある
たとへばそれは青くおぼろな保護色だ
むかふの丘の陰影のなかでもないてゐる
それからいくつもの月夜の峯を越えた遠くでは
風のやうに峡流も鳴ってゐる