一〇八七

     〔ぢしばりの蔓〕

                  一九二七、八、二〇、

   

   ……ぢしばりの蔓……

   もう働くな

   働くことが却って卑怯なときもある

   夜明けの雷雨が

   おれの教へた稲をあちこち倒したために

   こんなにめちゃくちゃはたらいて

   不安をまぎらさうとしてゐるのだ

   ……あゝけれども またあたらしく

     西には黒い死の群像が浮きあがる

     春には春には

     それは明るい恋愛自身だったでないか……

   さあ

   帰ってすっかりぬれる支度をし

   切できちっと頭を縄(しば)って出て

   青ざめて

   こはばったたくさんの顔に

   一人づつぶっつかって

   火のついたやうにはげましてあるけ

   穫れない分は辨償すると答へてあるけ

   死んでとれる保険金をその人たちにぶっつけてあるけ

   

 


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