萓もたほれ稲もたほれて

   野はらはいちめん

   とむらふやうな水けむり

   その縁さきにちょこんと座って

   翁はうつろなまなこをあげて

   そらのけはひを聴いてゐる

   幾層ものつつみの水は灰いろをしてはたけにあふれてゐるし

   松の林はみな黒雲の脚とすれすれ

   ただ桃いろの稲づまばかり

   冬も手織の麻を着て

   せわしく過ぎた七十年を

   嘲けりながら彰表するといったふう

   白くながれる雲の川と

   にはかに翔けり山からもまたひゞく雷

   

 


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