萓もたほれ稲もたほれて
野はらはいちめん
ぼんやり白い水けむり
その縁さきにちょこんと座って
翁(おきな)はうつろなまなこをあげ
そらのけはひを聴いてゐる
向ふは幾層つゝみの水が
灰いろをしてあふれてゐるし
幾群くらい松の林も
みな黒雲の脚とすれすれ
一様天地の否(ひ)のなかに
たゞ桃いろの稲づまばかり
そこらを一瞬ふしぎな邦と湧きたゝせ
やがては冬も麻を着て
せわしく過ぎた七十年を
頭ごなしに嘲けりながら
表彰するといったふう
……匪徒は歳ごと数も増せば
慾求の質も貢進する……
白くながれる雲の川に
巫戯化た柳が一本たつ