〔倒れかかった稲のあひだで〕

   

   倒れかかった稲のあひだで

   ある眼は白く忿ってゐたし

   ある眼はさびしく正視を避けた

     ……そして結局たづねるさきは

       地べたについたそのまっ黒な雲のなか……

   あゝむらさきのいなづまが

   みちの粘土をかすめれば

   一すじかすかなせゝらぎは

   わだちのあとをはしってゐる

   それもたちまち風が吹いて

   稲がいちめんまたしんしんとくらくなって

   あっちもこっちも

   ごろごろまはるからの水車だ

     ……幾重の松の林のはてで

       うづまく黒い雲のなか

       そこの小さな石に座って

       もう村村も町々も、

       衰へるだけ衰へつくし、

       うごくも云ふもできなくなる

       たゞそのことを考へやう……

   百万遍の石塚に

   巫戯化た柳が一本立つ

   

 


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