〔みんなは酸っぱい胡瓜を噛んで〕

   

   みんなは酸っぱい胡瓜を噛んで

   賦役に出ない家々から

   集めた酒をのんでゐる

   中で権左エ門の眼は

   眼がねをかけたやうに両方あかく

   立って宰領する熊氏の顔はひげ一杯だ

   榾のけむりは稲いちめんにひろがって

   雨はどしどしその青い穂に注いでゐる

   おれはぼんやり稲の種類を答へてゐる

   さっき何べんも何べんも

   あの赤砂利をかつがせられた

   顔のむくんだ弱さうな子は

   みんなのうしろの板の間に

   座って素麺(むぎ)をたべてゐる

   その赤砂利を盛った新らしい土橋は

   楢や杉の暗い陰気な林をしょって

   やっぱり雨に打たれてゐる

   ほだのけむりがそこまで青く這ってゐる

   

 


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