増水
一九二七、八、一五、
悪どく光る雲の下を
川は黄いろにひろがって
もう古くさい土佐絵の波もたててゐる
川下からは
田になった古川のあとを
ぢりぢり水があくってきて
豆のはたけはかくれてしまひ
桑のはたけももう半分はやられてしまひ
かたつむりの痕のやうにひかりながら
島になって残った松の下の草地と
白菜ばたけも浸されさう
盛岡の方では
まだまだ降ってゐるらしく
向ふ岸でも
やぱりかういふ古川が
野菜ばたけをやってるらしい
いつの間にどうして行ったのか
その温い恐ろしい磯に
黒くうかんで誰か四五人立ってゐる
一人は網をもってゐる
はゞきをはいて封介もゐる
封介がいま吠えるやうに叫んで
その巨きな濁りの水に石を投げた