一〇五九

     開墾地検察官

                  一九二七、五、九、

   

    山ぢゅうの木が

    やわらかな芽をひろげるもんで

    そこらは大へん白っぽい

   (ところがあれだ あれを見給へ

    立派な杉の方陣だらう)

       (どうもその開墾地も

        なかなかすぐにはいかないもんで)

   (あの杉は十四年前

    まだわが輩が

    こゝの雇でゐた時分

    一春かかって植えたんだ)

       (苹果の枝 兎に食はれました

        桜んぼの方は食ひませんで

        桃もやっぱり食はれました)

   (いや兎は捕らんけあいかんのだ

    それでも兎の食はない種類といふんなら

    Arbutus, Crataegus, Prunus, Rosa,

    それから Rhododendron

    Prunus といふのは梅だがね)

       (桜んぼの方は食ひませんで

        苹果と桃をたべたので)

   (そらそら

    その食はれた苹果の樹の幽霊が

    その谷そこに突ったって

    いっぱい花をつけてるでないか。)

        (はい)

   (いや ひどい日蔭だねえ

    おまけにずゐぶんひどい傾斜だ

    一崩れしたら道路も何もなくなってしまふ

    出願すればこゝは保安林へ編入するぞ)

   

 


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