〔芽をだしたために〕
一九二七、五、九、
芽をだしたために
大へん白っぽく甘酸っぱくなった山である
このわづかな休息の時間に
上層の風と交通するための第一の条件は
そんな肥った空気のふぐや
あはれなレデーを
煙幕でもって退却させることである
……川なめらかにくすんでながれ……
実に見給へ 傾斜地にできた
すばらしい杉の方陣である
諸君よ五月になると
林のなかのあらゆる木
あらゆるその藪のなかのいちいちの枝
みなことごとくやはらかな芽をひろげるのである
川にぶくひかってながれ
退職の警察署長のむすめが
水いろの上着を着て
電車にのって小学校に出勤しながら
まちの古いブルジョア出身の技術者を
少しの厭悪で見てゐたのである
こゝはひどい日蔭だ
ぎざぎざの松倉山の下のその日蔭である
あんまり永くとまってゐたくない
けれどもいったい
これを岩頸だなんて誰が云ふのか