一〇三九

     〔うすく濁った浅葱の水が〕

                  一九二七、四、一八、

   

   うすく濁った浅葱の水が

   けむりのなかをながれてゐる

   早池峰は四月にはいってから

   二度雪が消えて二度雪が降り

   いまあはあはと土耳古玉(タキス)のそらにうかんでゐる

   そのいたゞきに

   二すじ翔ける、

   うるんだ雲のかたまりに

   基督教徒だといふあの女の

   サラーに属する女(ひと)たちの

   なにかふしぎなかんがへが

   ぼんやりとしてうつってゐる

   それは信仰と奸詐との

   ふしぎな複合体とも見え

   まことにそれは

   山の啓示とも見え

   畢竟かくれてゐたこっちの感じを

   その雲をたよりに読むのである

   

 


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