〔燕麦(オート)の種子をこぼせば〕
一九二七、四、四、
燕麦(オート)の種子をこぼせば、
砂が深くくらく、
黒雲は温く妊んで
一きれ、 一きれ、
野ばらの藪を渉って行く
ぼろぼろの南京袋で帆をはって
船が一さうのぼってくる
からの酒樽をいくつかつけ
いっぱいの黒い流れを、
むらきな南の風に吹かれて
のろのろとのぼって往けば
金貨を護送する兵隊のやうに
人が三人乗ってゐる
一人はともに膝をかゝえ
二人は憎悪のまなこして
岸のはたけや藪を見ながら
身構えをして立ってゐる
……あれらの憎悪のひとみから
あらたな文化がうまれるのか……
どんより澱むひかりのなかで
上着の肩がもそもそやぶけ
どんどん翔ける雲の上で
ひばりがくるほしくないてゐる