一〇二五

     〔燕麦(オート)の種子をこぼせば〕

                  一九二七、四、四、

   

   燕麦(オート)の種子をこぼせば、

   砂が深くくらく、

   黒雲は温く妊んで

   一きれ、 一きれ、

   野ばらの藪を渉って行く

   

   ぼろぼろの南京袋で帆をはって

   船が一さうのぼってくる

   からの酒樽をいくつかつけ

   いっぱいの黒い流れを、

   むらきな南の風に吹かれて

   のろのろとのぼって往けば

   金貨を護送する兵隊のやうに

   人が三人乗ってゐる

   一人はともに膝をかゝえ

   二人は憎悪のまなこして

   岸のはたけや藪を見ながら

   身構えをして立ってゐる

     ……あれらの憎悪のひとみから

       あらたな文化がうまれるのか……

   

   どんより澱むひかりのなかで

   上着の肩がもそもそやぶけ

   どんどん翔ける雲の上で

   ひばりがくるほしくないてゐる

   

 


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