心象スケッチ、
    退耕

   

   黒雲は温く妊んで

   一きれ一きれ

   野ばらの藪を渉って行くし

   熊はぽろぽろ

   白い燕麦(オート)の種子をまく

   ぼろぼろの南京袋で帆をはって

   船が一さうのぼってくる

   からの酒樽をいくつかつけ

   山の鉛の溶けてきた

   いっぱいの黒い流れを

   睡さや春にさからって

   むらきな南の風に吹かれて

   のろのろとのぼってくれば

   金貨を護送する兵隊のやうに

   人が三人乗ってゐる

   一人はともに膝をかゝえ

   二人は岸のはたけや藪を見ながら

   身構えをして立ってゐる

   みんなずゐぶんいやな眼だ

   じぶんだけ放蕩するだけ放蕩して

   それでも不平で仕方ないとでもいふ風

   どんより澱む光のなかで

   上着の裾がもそもそやぶけ

   どんどん翔ける雲の上で

   ひばりがくるほしくないてゐる

   

 


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