一〇二五

                  一九二七、四、四、

   

   オートの種子がこぼれれば

   はたけのすなはいよいよくらく

   南からまた東から

   風がむらきに吹いて来て

   くるほしく春を妊んだ黒雲が

   一陣一陣

   野ばらの藪を渉って行く

   船が一さうのぼってくる

   ぼろぼろの南京袋で帆をはって

   四斗の樽を五つもつけ

   ねむさや春に逆って

   山の鉛が溶けて来た

   重いいっぱいの流れを溯り

   北の方の泣きだしたいやうな雲の下へ

   船はのろのろのぼって往く

   金貨を護送する兵隊のやうに

   みなで三人乗ってゐる

   一人はともに膝をかゝえて座ってゐるし

   二人はじろじろこっちを見ながら立ってゐる

   ところが思ふにあの樽はからで

   町まで酒を買ひに出るところ

   どんより澱むひかりのなかで

   上着の肩がもそもそやぶけ

   鉛をながす川いっぱいに

   擦過する鳥の交響

   船はのろのろ溯って行く

   

 


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