一九二七、四、四、
オートの種子がこぼれれば
はたけのすなはいよいよくらく
南からまた東から
風がむらきに吹いて来て
くるほしく春を妊んだ黒雲が
一陣一陣
野ばらの藪を渉って行く
船が一さうのぼってくる
ぼろぼろの南京袋で帆をはって
四斗の樽を五つもつけ
ねむさや春に逆って
山の鉛が溶けて来た
重いいっぱいの流れを溯り
北の方の泣きだしたいやうな雲の下へ
船はのろのろのぼって往く
金貨を護送する兵隊のやうに
みなで三人乗ってゐる
一人はともに膝をかゝえて座ってゐるし
二人はじろじろこっちを見ながら立ってゐる
ところが思ふにあの樽はからで
町まで酒を買ひに出るところ
どんより澱むひかりのなかで
上着の肩がもそもそやぶけ
鉛をながす川いっぱいに
擦過する鳥の交響
船はのろのろ溯って行く