〔一昨年四月来たときは〕
一九二七、四、一、
一昨年四月来たときは、
きみは重たい唐鍬をふるひ、
蕗の根をとったり
薹を截ったり
朝日に翔ける雪融の風や
そらはいっぱいの鳥の声で
一万のまた千億の
新におこした塊りには
いちいち黒い影を添へ
杉の林のなかからは
房毛まっ白な聖重挽馬が
こっそりはたけに下り立って
ふさふさ蹄の毛もひかってゐた
去年の春にでかけたときは
きみたちは川岸に居て
生温い南の風が
きみのかつぎをひるがへし
またあの人の頬を吹き
紺紙の雲には日が熟し
川が鉛と銀とをながし
楊の花芽崩れるなかに
きみは次々畦を堀り
人は尊い供物のやうに
牛糞を捧げて来れば
風は下流から吹いて吹いて
キャベヂの苗はわづかに萎れ
風は白い砂を吹いて吹いて
もういくつもの小さな砂丘を
畑のなかにつくってゐた
そしてその夏あの恐ろしい旱魃が来た