一〇二二

     〔一昨年四月来たときは〕

                  一九二七、四、一、

   

   一昨年四月来たときは、

   きみは重たい唐鍬をふるひ、

   蕗の根をとったり

   薹を截ったり

   朝日に翔ける雪融の風や

   そらはいっぱいの鳥の声で

   一万のまた千億の

   新におこした塊りには

   いちいち黒い影を添へ

   杉の林のなかからは

   房毛まっ白な聖重挽馬が

   こっそりはたけに下り立って

   ふさふさ蹄の毛もひかってゐた

   去年の春にでかけたときは

   きみたちは川岸に居て

   生温い南の風が

   きみのかつぎをひるがへし

   またあの人の頬を吹き

   紺紙の雲には日が熟し

   川が鉛と銀とをながし

   楊の花芽崩れるなかに

   きみは次々畦を堀り

   人は尊い供物のやうに

   牛糞を捧げて来れば

   風は下流から吹いて吹いて

   キャベヂの苗はわづかに萎れ

   風は白い砂を吹いて吹いて

   もういくつもの小さな砂丘を

   畑のなかにつくってゐた

   そしてその夏あの恐ろしい旱魃が来た

   

 


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