三七五

     山の晨明に関する童話風の構想

                  一九二五、八、一一、

   

   つめたいゼラチンの霧もあるし

   桃いろに燃える電気菓子もある

   またはひまつの緑茶をつけたカステーラや

   なめらかでやにっこい緑や茶いろの蛇紋岩

   むかし風の金米糖でも

   wavellite の牛酪でも

   またこめつがは青いザラメでできてゐて

   さきにはみんな

   大きな乾葡萄(レジン)がついてゐる

   みやまうゐきゃうの香料から

   蜜やさまざまのエッセンス

   そこには碧眼の蜂も顫える

   さうしてどうだ

   風が吹くと 風が吹くと

   傾斜になったいちめんの釣鐘草(ブリューベル)の花に

   かゞやかに かがやかに

   またうつくしく露がきらめき

   わたくしもどこかへ行ってしまひさうになる……

   蒼く湛えるイーハトーボのこどもたち

   みんなでいっしょにこの天上の

   飾られた食卓に着かうでないか

   たのしく燃えてこの聖餐をとらうでないか

   そんならわたくしもたしかに食ってゐるのかといふと

   ぼくはさっきからこゝらのつめたく濃い霧のジェリーを

   のどをならしてのんだり食ったりしてるのだ

   ぼくはじっさい悪魔のやうに

   きれいなものなら岩でもなんでもたべるのだ

   おまけにいまにあすこの岩の格子から

   まるで恐ろしくぎらぎら熔けた

   黄金の輪宝(くるま)がのぼってくるか

   それともそれが巨きな銀のラムプになって

   白い雲の中をころがるか

   どっちにしても見ものなのだ

   おゝ青く展がるイーハトーボのこどもたち

   グリムやアンデルセンを読んでしまったら

   じぶんでがまのはむばきを編み

   経木の白い帽子を買って

   この底なしの蒼い空気の淵に立つ

   巨きな菓子の塔を攀ぢやう

 

 


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