三七二

     

                  一九二五、八、一〇、

   

   谷を覆ったいたやの脚を

   煤けた雲がのぼってくるし

   滝はどんどん弧を増して

   色も濁れば形も悪い

   ところがこゝはちやうど直径一米

   ひどく明るくて石油のやうで

   雫にぬれたしらねあふひやぜんまいや

   いろいろの葉が青びかりして

   風にぶるぶる顫えてゐる

   こゝだけ木立がすいてゐるのかさうでもない

   こゝだけ雲が切れたのか さうでもない

   それではこっちがあんまりぬれて

   がたがたふるえてゐるために

   何かさういふ発光をしてゐるのだらうか

   結局これは一目散にみちへ出るのが本当らしい

   それではかけろ 犬榧犬榧

   みんな申し分ないいゝ石だがな

 

 


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