渓
一九二五、八、一〇、
谷を覆ったいたやの脚を
煤けた雲がのぼってくるし
滝はどんどん弧を増して
色も濁れば形も悪い
ところがこゝはちやうど直径一米
ひどく明るくて石油のやうで
雫にぬれたしらねあふひやぜんまいや
いろいろの葉が青びかりして
風にぶるぶる顫えてゐる
こゝだけ木立がすいてゐるのかさうでもない
こゝだけ雲が切れたのか さうでもない
それではこっちがあんまりぬれて
がたがたふるえてゐるために
何かさういふ発光をしてゐるのだらうか
結局これは一目散にみちへ出るのが本当らしい
それではかけろ 犬榧犬榧
みんな申し分ないいゝ石だがな