映画劇「ベーリング鉄道」序詞
一九二五、二、一五、
これは吹雪(ふぶき)が映したる、
硼砂の嵐、Lap Nor(湖)の幻燈でございます
まばゆい流沙の蜃気楼でございます
この地方では吹雪はこんなに甘くあたたかくて
恋人のやうにみんなの胸を切なくいたします
雲もぎらぎらにちぢれ
木が幻照のなかから生えたつとき
翻へったり砕けたり或は全い空明を示したり
吹雪はかゞやく流沙のごとくに
地平はるかに移り行きます
それはあやしい火にさへなって
ひとびとの視官を眩惑いたします
或は燃えあがるボヘミヤの玻璃
すさまじき光と風との奏鳴者
そも氷片にまた趨光の性あるか
はた白金の極を索むる泳動が、
旋る日脚に従って
(そらのフラスコ)四万アールの散乱質は
地平はるかに遷り行きます
その風の脚、
まばゆくまぶしい光の中を、
スキップといふかたちをなして、
一の影こなたへ来れば
いまや日は乱雲に落ち
そのへりは烈しい鏡を示します