四一九

     ある幻燈序詞

                  一九二五、二、一五、

   

   これは吹雪がつくりたる

   硼砂の嵐 Lap Nor の幻燈でございます

   まばゆい流砂の蜃気楼でもございます

   この地方には吹雪がこんなに甘くあたたかくて

   恋人のやうにみんなの胸を切なくする、

   半日半日がございます

   雲もぎらぎらにちぢれ

   木が還(げん)照のなかから生えたつとき

   翻へったり砕けたり或は全い空明を示したり

   吹雪はかがやく流沙のごとくに

   地平はるかに移り行きます

   それはあやしい火にさへなって

   ひとびと  の視官を眩惑いたします

   或は燃えあがるボヘミヤの玻璃

   すさまじき光と風との奏鳴者

   そも氷片にまた趨光の性あるか

   はた白金の極を索むる泳動か

   そらのフラスコ、

   四万アールの散乱質は

   旋る日脚に従って

   地平はるかに遷り行きます

   その風の脚

   まばゆくまぶしい光のなかを

   スキップといふかたちをなして

   一の黒影こなたへ来れば

   いまや日は乱雲に落ち

   そのヘりは烈しい鏡を示します

 

 


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