冬二篇

 

     奏鳴四一九

   

   これは吹雪(ふぶき)が映(うつ)したる

   硼砂(ほうさ)の嵐 Rap Nor(ラプノール)(湖(こ))の幻燈(げんたう)でございます

   まばゆい流沙(るさ)の蜃気楼(しんきらう)でもございます

   この地方では吹雪がこんなに甘くあたたかくて

   恋人(こひびと)のやうにみんなの胸を切(せつ)なくいたします

   雲もぎらぎらにちぢれ

   木が幻照(げんしやう)のなかから生(は)えたつとき

   飜(ひるがへ)つたり砕けたり或は全(まつた)い空明(くうめい)を示したり

   吹雪はかがやく流沙(るさ)のごとくに

   地平(ちへい)はるかに移(うつ)り行きます

   それはあやしい火にさへなつて

   ひとびとの視官(しくわん)を眩惑(げんわく)いたします

   或(ある)は燃えあがるボヘミヤの玻璃(はり)

   すさまじき光と風との奏鳴者(そうめいしや)

   そも氷片(ひやうへん)にまた趨光(すうくわう)の性(せい)あるか

   はた白金(はくきん)の極(きよく)を索(もと)むる泳動(えいだう)

   (そらのフラスコ)四万アールの散乱質(さんらんしつ)

   旋(めぐ)る日脚(ひあし)に従(したが)つて地平はるかに遷(うつ)り行きます

   その風の脚

   まばゆくまぶしいひかりのなかを

   スキツプの態(かたち)をなして一人(ひとり)の黒い影が来れば

   いまや日は乱雲(らんうん)に落ち

   そのヘりは烈(はげ)しい鏡を示します

 

 


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