三五六

     旅程幻想

                  一九二五、一、八、

   

   さびしい不漁と旱害のあとを

   海に沿ふ

   いくつもの峠を越えたり

   萓の野原を通ったりして

   ひとりここまで来たのだけれども

   いまこの荒れた河原の砂の、

   うす陽のなかにまどろめば、

   肩またせなのうら寒く

   何か不安なこの感じは

   たしかしまひの硅板岩の峠の上で

   放牧用の木柵の

   楢の扉を開けたまゝ

   みちを急いだためらしく

   そこの光ってつめたいそらや

   やどり木のある栗の木なども眼にうかぶ

   その川上の幾重の雲と

   つめたい日射しの格子のなかで

   何か知らない巨きな鳥が

   かすかにごろごろ鳴いてゐる

 

 


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