過労呪禁
一九二四、一〇、一一、
なんぼあしたは木炭を荷馬車に山に積み
くらいうちから町へ出かけて行くたって
こんな月夜の夜なかすぎ
稲をがさがさ高いところにかけたりなんかしてゐると
……ずゐぶん遠くの原までも
葉擦れの音は聞えるもんだ……
そうら あんなに
苗代の水がおはぐろみたいに黒くなり
畔に植はった大豆(まめ)はどしどし行列するし、
十三日のけぶった月のまはりには、
十字になった白い暈さへあらはれて、
空も魚の眼球に変り
いづれあんまり録でもないことが、
いくらもいくらも起ってくる
おまへは底びかりする北ぞらの
天河石(アマゾンストン)のところなんぞにうかびあがって
風をま喰ふ野原の慾とふたりづれ
威張って稲をかけてるけれど
おまへのだいじな女房は
下でつかれて乳酸みたいにやわくなり
口をすぼめてよろよろしながら
丸太のさきに稲束をつけては
もういゝ加減区劃りをつけてはねおりて
そいつを抱いてやったらどうだ