九三

     〔日脚がぼうとひろがれば〕

                  一九二四、五、八、

   

   日脚がぼうとひろがれば

   つめたい西の風も吹き

   黒くいでたつむすめが二人

   接骨木藪をまはってくる

   けらを着 縄で胸をしぼって

   睡蓮の花のやうにわらひながら

   ふたりがこっちへあるいてくる

   その蓋のある小さな手桶は

   けふははたけへのみ水を入れて来たのだ

   ある日は青い蓴菜を入れ

   欠けた朱塗の椀をうかべて

   朝がこれより爽やかなとき

   町へ売りにも来たりする

   赤い漆の小さな桶だ

   けらがばさばさしてるのに

   瓶のかたちの袴(モッペ)をはいて

   おまけに鍬を二梃づつ

   けらにしばってゐるものだから

   何か奇妙な鳥踊りでもはじめさう

   大陸からの季節の風は

   続けて枯れた草を吹き

   にはとこ藪のかげからは

   こんどは生徒が四人来る

   赤い顔してわらってゐるのは狼(オイノ)

   一年生の高橋は 北清事変の兵士のやうに

   はすに包みをしょってゐる

 

 


   ←前の草稿形態へ

次の草稿形態へ→