〔日脚がぼうとひろがれば〕
一九二四、五、八、
日脚がぼうとひろがれば
つめたい西の風も吹き
黒くいでたつむすめが二人
接骨木藪をまはってくる
けらを着 縄で胸をしぼって
睡蓮の花のやうにわらひながら
ふたりがこっちへあるいてくる
その蓋のある小さな手桶は
けふははたけへのみ水を入れて来たのだ
ある日は青い蓴菜を入れ
欠けた朱塗の椀をうかべて
朝がこれより爽やかなとき
町へ売りにも来たりする
赤い漆の小さな桶だ
けらがばさばさしてるのに
瓶のかたちの袴(モッペ)をはいて
おまけに鍬を二梃づつ
けらにしばってゐるものだから
何か奇妙な鳥踊りでもはじめさう
大陸からの季節の風は
続けて枯れた草を吹き
にはとこ藪のかげからは
こんどは生徒が四人来る
赤い顔してわらってゐるのは狼(オイノ)沢
一年生の高橋は 北清事変の兵士のやうに
はすに包みをしょってゐる