九百二十六年の

   桃の花よりやゝ過ぎて

   その玢岩の渓谷に

   化の鳥一羽渡り来ぬ

   鳥は黄いろの膨らみて

   膠朧質のピンクの春に

   かゞやくこしやうさてはまた

   ガラスの点をふりまきて

   夜ごとに訴へかなしめる

   なやましき声をあげわたし

   ひるも林や丘丘や

   スカイラインの紺にうたひて

   ひとびとの粗暴なる力を盗みあつめ

   あたかも太陽に熟したる棘の成れるころ

   東の青くけぶれる海へ飛び去りにけり

   かくてたばこの燃えて立ち

   稲がちいさき鳥の羽をつけしとき

   人々全身 赤き斑点に冒された

   胸やせなかに大なる穴を明けられて

   死したるもありそのまゝに

   息のみをつくミイラとなれるもありにけり

 

 


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