一千九百二十八年六月まひるの
丸善階上喫煙室の小景
ほとんど初期の春信みたいなおだやかな色どりで
またわざと古びた青磁のいろの窓かけと
ごくおもむろな陰影をもこめたこの室に
ソーファが置かれ椅子も置かれてそいつがみんな共いろで
たいへんやさしくつゝましやかにできてゐる
ところがわたしは疑問をもった
どうして壁がすべての椅子のうえのとこでよごれてゐるか
高い椅子には高いところで
低いソファーは低いところで
壁がふしぎににじんでゐる
……そらにはうかぶ鯖の雲
築地の上にはひかってかゝる雲の峯……
(以下紙葉なし)