廃屋手入
窓から黒く飛び出したのは
秘事念仏の弟子ではなくて
小友から来た大工弟子
たゞ二足で
松の下まではねて来て
釘をつまんではらかけに入れ
また一つまみは口に入れ
たちまち窓へ飛び込めば
日が照って日が照って
うしろの杉の林では
鳩がすうすう啼いてゐる
落葉を燃やす青いけむりは
南の崖へながれて行って
そのまんなかで
かげらふも川もきらきらひかる
りんごを植える穴を掘る
イギリスのお役人たちの口癖通り
馬をうめる位に掘れ
馬をうめる位に掘れと
じぶんでじぶんに云ひながら
一生けん命掘ってゐる
あしたはどうなるかわからない?
落葉松の青い芽も噴かせ
苹果の乳いろの花も咲けだ
どうするかわからないでなく
どうなるかわからないといふのなら
なんにもないさ
植えろ植えろ
やっさもっさと云ってるうちに
木などはぐんぐんのびてしまふんだ
銀ドロの葉もひらめかし
いなづまの晩にはまっ白な百合
夏には赤いおにげしを燃し
けれども
まづ喧嘩してもっと楽にしてからといふのなら
銀ドロなどはやめてしまへ
花だの木だの植えて
ひとをなだめて喧嘩するのをやめさせやうなんて
おれはそんなけちな人間ではない
喧嘩をするものとしないもの
眼をいつでも人間に向けて
きろきろしてゐるものと
自然に向けて
ぼうとしてゐるものとは
強制されないかぎり
大ていはうまれつきだよ