廃屋手入
いきなり窓から飛び出したのは
小友から来た大工弟子
たゞ二足で
松の下まではねて来て
釘をつまんではらかけに入れ
また一つまみは口に入れ
たちまち窓へ飛び込めば
日が照って日が照って
うしろの杉の林では
鳩がすうすう啼いてゐる
くさったいがや松葉を燃やす
ぼそぼそ青いけむりの列は
南の崖へながれて行って
その向ふでは
かげらふも川もきらきらひかる
となりの桐のはたけでは
もゝ引ばきの幸一が
りんごを植える穴を掘る
イギリスのお役人たちの口癖通り
馬をうめる位に掘れ
馬をうめる位に掘れと
じぶんでじぶんに云ひながら
一生けん命掘ってゐる
あしたはどうなるかわからないといって
今日は洋々たる春の希望
落葉松の青い芽も
苹果の乳いろの花も咲けだ
こっちの枯れた萱ばでは
めいめいに火をうつして行って
赤い髪をした子どもらが
蘭の花だの羊歯の芽を
一列ならんでくつくつ煮る
家の中では小友から来た大工の弟子が
軒を裏からはげしく叩く