青ざめてやつれて
きんきんまぶしい風のなかへ
ひとが危うく出てくると
みんなはなにかちぐはぐに
崖の杉だの雲だのを見る
何とさびしくこのひとが
みんなに挨拶することよ
いそがしい田植どき
病気ではたらけなかったことは
村ではそのまゝ罪なのだ
家のまはりにめちゃくちゃに植えられた稲は
いま弱々と徒長して
どんどん風に吹かれてゐる
苗代にも波が立てば
雲もちゞれてぎらぎら飛ぶ
去年のやっぱりいまごろは
この人がみんなに先立ちで
あすこの崖のはなに立っては
色異ったいちいちの田の
日附けや種類を説き示し
電車線路の横の茶みせにやすんでは
漬けた胡瓜もぽくぽくたべた
巨きな暗い家のなかで
あらゆる奇怪な幻想や
痛さやたよりなさに苦しんだあげく
けふこの人はみんなの前で
大へんちぐはぐなおもひをする
眼ばかりひどく大きくて
額は汗でいっぱいだ
陽のなかで風が吹いて吹いて
ひとはさびしく立ちつくす
畔のすかんぽもゆれれば
家ぐねの杉もひゅうひゅう鳴る