村の政客

   

   水もごろごろ鳴れば

   鳥が幾むれも幾むれも

   まばゆい東の雲やけむりにうかんで

   小松の野はらを過ぎるとき

   この人は瑪瑙のやうに

   うるんで赤い眼をして

   がまのはむばきをはき

   胸高く腕を組んで

   ちがった熱い桃いろの春を

   怨霊のやうにひとりさまやふ

   うしろでは鳥ヶ森や

   八方山の下からつゞく

   一里四方の巨きな丘に

   まだ芽を出さない栗の木が

   褐色の梢をそろへ

   その麓の

   月光いろの草地には

   立派なはんの一むれが

   東方風にすくすくと立つ

   このうつくしい部落のなかで

   ふかぶかとうなじを垂れて

   ひとはさびしく行き惑ふ

   苗代はいま緑金を増し

   畔では羊歯の芽もひらき

   すぎなも青く冴えれば

   あっちでもこっちでも

   三本鍬をぴかぴかさせ

   乾田を起してゐるときに

   ひとはがまのはむばきをはき

   うるんで赤いまなこして

   その政敵への復讐をかんがへながら

   怨霊のやうにそこらをあるく

 

 


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