霰
鍬をかついだり
のみ水の桶をもったりして
はだしで家にかけこむところは
やまと絵巻の手法である
現にいまこの消防小屋の横からぱっとあらはれて
ちらっと横目でこっちを見
きものの袖で頭をかくし
橋へかゝってゐる人などは
立派にその派の標本である
小屋の中には型のごとくにポムプはひとつ
ホースを巻いた車も一つ
黒びかりする大きなばれん
尖った軒の頂部では
赤く塗られた円電燈の
塗料がなかば剥げてゐる
雀がくれの苗代に
霰は白く降り込んで
そこらの家も土蔵もかすむ
もう山鳩も啼かないし
上の野原の野馬もみんなしょんぼりだらう