一〇八九

     〔二時がこんなに暗いのは〕

                  一九二七、八、二〇、

   

   二時がこんなに暗いのは

   時計も雨でいっぱいなのか

   本街道をはなれてからは

   みちは烈しく倒れた稲や

   陰気なひばの木立の影を

   めぐってめぐってこゝまで来たが

   里程にしてはまだそんなにもあるいてゐない

   そしていったいおれのたづねて行くさきは

   地べたについた北のけはしい雨雲だ、

   こゝの野原の土から生えて

   こゝの野原の光と風と土とにまぶれ

   老いて盲いた大先達は

   なかばは苔に埋もれて

   そこでしづかにこの雨を聴く

   またいなびかり、

   林を嘗めて行き過ぎる、

   雷がまだ鳴り出さないに、

   あっちもこっちも、

   気狂ひみたいにごろごろまはるから水車

   ハックニー馬の尻ぽのやうに

   青い柳が一本立つ

   

 


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