〔秘事念仏の大元締が〕
一九二七、五、七、
秘事念仏の大元締が
今日は息子と妻を使って、
北上ぎしへ陸稲(おかぼ)播き、
なまぬるい南の風は
川を溯ってやってくる
秘事念仏のかみさんは
乾いた牛の糞(コヤシ)を捧げ
もう導師とも恩人とも
じぶんの夫をおがむばかり
緑青いろの巨きな蠅が
牛の糞をとびめぐる
秘事念仏の大元締は
麦稈帽子をあみだにかぶり
黒いずぼんにわらじをはいて
よちよちあるく烏を追ふ
紺紙の雲には日が熟し
川は鉛と銀とをながす
秘事念仏の大元締は
むすこがぼんやり楊をながめ
口をあくのを情けながって
どなって石をなげつける
楊の花は黄いろに崩れ
川ははげしい針になる
下流のやぶからぽろっと出る
紅毛まがひの郵便屋