一〇四六

     悍馬

                  一九二七、四、二五、

   

   封介の廐肥(こえ)つけ馬が、

   にはかにぱっとはねあがる

   眼が紅く 竜に変って

   青びいどろの春の天を

   あせって掻いてとらうとする

   廐肥が一っつぽろっとこぼれ

   封介は両手でたづなをしっかり押へ

   半分どてへ押つける

   馬は二三度なほあがいて

   やうやく巨きな頭をさげ

   竜になるのをあきらめた

     雲ののろしは四方に騰り

     萓草芽を出す崖腹に

     マグノリアの花と霞の青

   ひとの馬のあばれるのを

   なにもそんなに見なくてもいゝ

   おまへの鍬がひかったので

   馬がこんなにおどろいたのだと

   こぼれ廐肥にかゞみながら

   封介はしづかにうらんで云ふ

   封介は一昨日から

   くらい厩で熱くむっとする

   何百把かの廐肥をしばって

   すっかりむしゃくしゃしてゐるのだ

   

 


   ←前の草稿形態へ

次の草稿形態へ→