悍馬
一九二七、四、二五、
封介の廐肥(こえ)つけ馬が、
にはかにぱっとはねあがる
眼が紅く 竜に変って
青びいどろの春の天を
あせって掻いてとらうとする
廐肥が一っつぽろっとこぼれ
封介は両手でたづなをしっかり押へ
半分どてへ押つける
馬は二三度なほあがいて
やうやく巨きな頭をさげ
竜になるのをあきらめた
雲ののろしは四方に騰り
萓草芽を出す崖腹に
マグノリアの花と霞の青
ひとの馬のあばれるのを
なにもそんなに見なくてもいゝ
おまへの鍬がひかったので
馬がこんなにおどろいたのだと
こぼれ廐肥にかゞみながら
封介はしづかにうらんで云ふ
封介は一昨日から
くらい厩で熱くむっとする
何百把かの廐肥をしばって
すっかりむしゃくしゃしてゐるのだ