一〇三〇

     春の雲に関するあいまいなる議論

                  一九二七、四、五、

   

   あの黒雲が、

   きみをぎくっとさせたとすれば

   それは群集心理だな

   この川すじの五十里に

   麦のはたけをさくったり

   桑を截ったりやってゐる

   われらにひとしい幾万人が

   いままで冬と戦って来た情熱を

   うらがなしくもなつかしいおもひに変へ

   なにかほのかなのぞみに変へれば

   やり場所のないその瞳を

   みなあの雲に投げてゐる

   それだけでない

   あのどんよりと暗いもの

   温んだ水の懸垂体

   あれこそ恋愛そのものなのだ

   炭酸瓦斯の交流や

   いかさまな春の感応

   あれこそ恋愛そのものなのだ

   

 


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