一〇〇一

     汽車

                  一九二七、二、一二、

   

   プラットフォームは眩ゆくさむく

   緑に塗られたシグナルや

   きららかに飛ぶ氷華のなかに

   わづかばかりの朝刊や

   郵便物がとりおろされる

     笛が鳴り笛が鳴り

   あゝ偏狭に学士は老いて

   さびしくひとを見送って立ち

   その影消えて鎖した窓は

   夜の残りの氷羊歯から飾られる

   

   車のなかはちいさな塵の懸垂と

   そのうつくしいティンダル効果

     日照はいましづかな冬で

     でんしんばしらや建物や鳩

   

       かゞやいて立つ氷の樹

       蒼々けぶる山と雲

       髪をみだし黒いネクタイをつけて

       朝の光にねむる写真師

   

   ……これが小さくてよき梨を産するあの町であるか……

   ……はい閣下 今日は多量の氷華を産して居りまする……

   ……それらの樹群はかのよき梨の母体であるか……

   ……はい閣下 あれは夏にはニッケル鋼のかゞ

     みを吊す

     はんの木立でございます……

   ……酒屋がたくさんあるやうぢゃねえ……

   ……はい閣下 凛烈芳を競ふ酒旗の風であります……

   ……ははあ……

 

   アカシヤの木の乱立と

   光と雲に交叉する電線

   

 


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