七四三

     白菜畑

                  一九二六、一〇、一三、

   

   ここの柱のならびから

   膨らみ(エンタシス)ある水いろを

   誰か二っつはづして行った

   つめたい風が吹いて吹いて

   わたくしの耳もとで鳴るけれども

   河はつやつや光ってすべって

   はやくも弱いわたくしは

   風が永久の観点から

   じつにほのかにわらひながら

   わたくしをなぐさめてゐると考へ

   ひたひに接吻して

   気持ちを直せとさう云へば

   きらゝかにわらってさうもすると

   じぶんでじぶんを迎へやうとするけれども

   そんならまっすぐに強く進めと云って

   かういふふうにその人をさせた

   社会の組織や人の不徳を憎んで見ても

   結局やっぱり畑を掘ってゐるより仕方ない

   そこで断じてわたしの風よ

   つめたい接吻をわたしに与へ

   川よかゞやくおまへの針で

   おれの不快を運んで行けだ

   はっは 馬鹿野郎

   それでおれは

   この残された推古時代の礎に

   萱穂を二つ飾って置かう

   それが当分

   東洋思想の勝利でもある

   

 


   ←前の草稿形態へ

次の草稿形態へ→