七四一

     白菜畑

   

   霜がはたけの砂いっぱいで

   エンタシスある柱の列は

   みな水いろの影をひく

   十いくつかのよるとひる

   病んでもだえてゐた間

   こんなつめたい空気のなかで

   千の芝罘白菜は

   はぢけるまでの砲弾になり

   包頭連の七百は

   立派なパンの形になった

   こゝは船場を渡った人が

   みんな通って行くところだし

   川に沿ってどっちへも抜けられ

   崖の方へも出られるので

   どうもこゝへ野菜をつくっては

   盗られるだらうとみんなで云った

   けれども誰も盗まない

   季節にはひとりでにかういふに熟して

   朝はまっ白な霜をかぶってゐるし

   早池峰薬師ももう雪でまっしろ

   川は爆発するやうな

   不定な湯気をときどきあげ

   燃えたり消えたりしつづけながら

   どんどん針をながしてゐる

   病んでゐても

   あるひは死んでしまっても

   残りのみんなに対しては

   やっぱり川はつづけて流れるし

   なんといふいゝことだらう

   あゝひっそりとしたこのはたけ

   けれどもわたくしが

   レアカーをひいて

   この砂つちにはいってから

   まだひとつの音もきいてゐないのは

   それとも聞えないのだらうか、

   巨きな湯気のかたまりが

   いま日の面を通るので

   柱列の青い影も消え

   砂もくらくはなったけれども

   

 


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