七四一

     白菜畑

   

   霜がはたけの砂いっぱいで

   エンタシスある柱の列は

   みな水いろの影をひく

   十いくつかのよるとひる

   病んでもだえてゐた間

   こんなつめたい空気のなかで

   千の芝罘白菜は

   はぢけるまでの砲弾になり

   包頭連の七百は

   立派なパンの形になった

   早池峰ももう雪でまっしろ

   川はつやつやひかりながら

   不定な湯気をあげてゐる

   燃えたり消えたりしつづけながら

   かすかに鳴ってながれてゐる

   病んでゐても

   あるひは死んでしまっても

   川がだまって流れてゐることは

   なんといふいゝことだらう

   あゝひっそりとしたこのはたけ

   けれどもわたくしは

   レアカーをひいて

   この砂つちにはいってから

   まだひとつの音もきいてゐないのは

   ほんたうに音がないのだらうか

   それとも聞えないのだらうか、

   日の面を湯気のかたまりが通ってゐるので

   砂はまたぼんやりくらくなってきた

   

 


   ←前の草稿形態へ

次の草稿形態へ→