煙
一九二六、一〇、九、
川上の
練瓦工場の煙突から
けむりが雲につゞいてゐる
あの脚もとにひろがった
青じろい頁岩の盤で
尖って長いくるみの化石をさがしたり
古いけものの足痕を
うすら濁ってつぶやく水のなかからとったり
二夏のあひだ
生徒らとたのしくあそんで過ごしたのに
いま山山は四方にくらく
みんなはどこかの
まがりくねった樹に集って
黒いりんごを落してゐれば
練瓦工場の煙突からは
何をたいてゐるのか
黒いけむりがどんどんたって
そらいっぱいの雲にもまぎれ
白金いろの天末も
だんだん狭くちゞまって行く