七四〇

     

                  一九二六、九、二三、

   

   江釣子森の脚から一里

   荒さんで甘い乱積雲の風の底

   稔った稲や赤い萓穂の波のなか

   そこに果敢な鍋倉衆(数文字不明)ゐる

   押し歩いたりわらったりして待ってゐる

   

   恐れた歳のとりいれ近く

   わたりの鳥はつぎつぎ渡り

   野ばらの藪のガラスの実から

   風が刻んだりんだうの花

   幾重の楢の林のはてで

   赤い鳥居や昴(スバル)の塚や

   そのおのおのの熟した稲に

   異る百の因子を数へ

   われわれは今日一日をめぐる

   

   青じろいそばの花から

   蜂が終りの蜜を運べば

   まるめろの香とめぐるい風に

   江釣子森の脚から一里

   雨つぶ落ちる萓野の岸で

   強く果敢な鍋倉衆が

   けさわたくしを待ってゐる

   

 


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