風と合唱
一九二六、九、一〇、
すゝきの花や暗い林の向ふのはうで
なにかちがった風の品種が鳴ってゐる
ぎらぎら縮れた雲と青陽の格子のなかで
なにか楽しい風の変種がふるえてゐる
そらをうつして空虚(うつろ)な川や
黒いけむりをわづかにあげる
練瓦工場の向ふのはうで
冴え冴えとしてまたひゞくのは
組合倉庫の地堅めに
みんなでつくる合唱(コーラス)だ
熟した雲やくわりんの匂
無色な風の一聯が
そこで特種な振動を
こっちの方へとびながら
ちがった風や地物のために、
幾きれにも幾きれにもちぎられ
塊になったり紐になったりして
つぎつぎ遷る(三字不明)縦波を載せたまゝ
交々こゝを通って行けば
その一かけのなかからは
冗談を云ふバリトンと
栗鼠のやうな女のわらひ
すゝきの花や青い林の向ふから
歌はつぎつぎ流れてくる