七三八

     風と合唱

                  一九二六、九、一〇、

   

   すゝきの花や暗い林の向ふのはうで

   なにかちがった風の品種が鳴ってゐる

   ぎらぎら縮れた雲と青陽の格子のなかで

   なにか楽しい風の変種がふるえてゐる

   そらをうつして空虚(うつろ)な川や

   黒いけむりをわづかにあげる

   練瓦工場の向ふのはうで

   冴え冴えとしてまたひゞくのは

   組合倉庫の地堅めに

   みんなでつくる合唱(コーラス)

   熟した雲やくわりんの匂

   無色な風の一聯が

   そこで特種な振動を

   こっちの方へとびながら

   ちがった風や地物のために、

   幾きれにも幾きれにもちぎられ

   塊になったり紐になったりして

   つぎつぎ遷る(三字不明)縦波を載せたまゝ

   交々こゝを通って行けば

   その一かけのなかからは

   冗談を云ふバリトンと

   栗鼠のやうな女のわらひ

   すゝきの花や青い林の向ふから

   歌はつぎつぎ流れてくる

   

 


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