七三五

     饗宴

                  一九二六、九、三、

   

   みんなは酒を飲んでゐる

    ……土橋は曇りの午前にできて

      いまうら青い榾のけむりと雨の脚……

   みんなは地主や賦役に出ない人たちから

   集めた酒を飲んでゐる

   おれはぼんやり

   稲の種類を云ってゐる

   一人の子どもの百姓が

   みんなのうしろの板の間で

   座って素麺(むぎ)をたべてゐる

   からだ以上の仕事のために

   顔も蒼ざめむくんでゐる

   いまわたくしをぬすみみる

   瞳よ闇夜の二つの星のやうに燃えて帰るのは

   わたくしが酒を呑まないのに安心したのか

   それとも村がまもなく明るくなるといふのか

   あゝわたくしもきみとひとしく

   はげしい疲れや屈辱のなかで

   なにかあてなく向ふを望むだけなのに

   

 


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