行きすぎる雲の影から、
赤い小さな蟻のやうに
馬がきらきらひかって出る
みんないっしょにあつまってゐる
かげらふのためにはげしくゆれる
小さな藪をせなかにしょって
白いずぼんのをとこが一人
馬にむかって立ってゐる、
それもやっぱりぐらぐらゆれる
たぶんは食塩をやるために
ラッパを吹いてあつめたところ
うしろは姥石高日まで
いまさわやかな夏草だ
それが茶いろの防火線と
緑のどてでへりどられ
十幾つかにわけられる
つるつる光る南のそらから
風の脚や雲の影は
何べんも何べんも涵って来て、
群はそのたびくらくなる
草の年々へるわけは
一つは木立がなくなって
土壌があんまり乾くためだ、
木のあるところは草もいゝし、
窪ほど草がいゝやうだ
はんをつけるといゝなと云へば
あの冷静な高清は
そんな費用があるくらゐなら
豆をも少し食はせるといふ
一つはやっぱり脱滷のためだ、
採草地でなく放牧地なら
天然的な補給もあり
地力は衰へない筈だけれども
ずゐぶんあちこち酸性で
すゐばなどが生えてゐる
どこか軽鉄沿線で
石灰岩を切り出して
粉にして撒けばいゝと云へば
それはほんとにいゝことか
畑や田にもいゝのかと
さう高清が早速きく
もちろんそれは畑にもいゝ
アメりカなどでもう早くからやってゐる
さう答へれば高清は、
それならひとつ県庁へ行って
株式会社をたてるといふ
国家事業とか何とか云って
株をあちこち募集して
十年ぐらゐの間には
誰がどうにかしたでもなく
すっかりもとをなくしてしまふ
馬はやっぱりうごかない
人もやっぱりうごかない
かげらふの方はいよいよ強く
雲影もまたたくさん走る