電軌工事
一九二五、八、一〇、
……朝のうちから稲田いちめん雨の脚……
カーブのところは
X形の信号標や はしごのついた電柱や
風の廊下といったふうにできあがった
……青く平らな稲田のなかのはなしだよ……
親方は、信号標のま下に立って
びしゃびしゃ雨をあびながら
ぢっと向ふを見詰めてゐる
……雨だか雲だか向ふはくらいよと……
そのこっちでは工夫が二人、
つるはしをもちしょんぼりとして、
稲びかりから漂白される
どなたかお待ちの電燈(あかり)が一つよと……
やあ 汽缶車がやってくる
日露戦争のときのワリヤーク号みたいに
黒いけむりをもくもく吐いて
雨を二つに分けながら
そこらの盛られたゆるい砂利だの稲田だの
地響きさせて走ってくる