三五〇

     図案下書

                  一九二五、六、八、

   

   高原(はら)の上から地平線まで

   あをあをとそらはぬぐはれ

   ごりごり黒い樹の骨傘は

   そこいっぱいに

   藍燈と瓔珞を吊る

   

      Ich bin der Juni,der Jungste.

   

   小さな億千のアネモネの旌は

   野原いちめん

   つやつやひかって風に流れ

   葡萄酒いろのつりがねは

   かすかにりんりんふるえてゐる

   

   漆づくりの熊蟻どもは

   黒いポールをかざしたり

   キチンの斧を鳴らしたり

   せわしく夏の演習をやる

   

   白い二疋の磁製の鳥が

   ごくぎこちなく飛んできて

   いきなり宙にならんで停り

   がちんと嘴をぶっつけて

   またべつべつに飛んで行く

   

   ひとすじつめたい南の風が

   なにかあやしいかほりを運び

   その高原の雲のかげ

   青いベールの向ふでは

   もうつゝどりもうぐひすも

   ごろごろごろごろ鳴いてゐる

 

 


   ←前の草稿形態へ