三四五

     陸中国挿秧之図

                  一九二五、五、三一、

   

   Largo や青い雲滃(かげ)もながれ

   鉛の水は稲田をわたり

   くゎりんの花もぼそぼそ暗く燃えあがるなかを

   馬もゆききし

   ひともうつつにうごいてゐる

     並木は松の黒緑の列

     延びあがるものあやしく曲り惑ふもの

     あるひは青い蘿をまとふもの

   風が苗代の緑の氈と

   はんの木の葉にさゝやけば

   馬は水けむりをひからせ

   こどもはマオリの呪神のやうに

   小手をかざしてはねあがる

      ……あまずっぱい風の脚

        あまずっぱい風の呪言……

   小鳥は楢の林のなかで

   豆やガラスがあらゆる穀粒をまきちらし

   まんじゅう笠の集配人は

   こゝろせはしく小径をかへる

      ……畦はたびらこきむぽうげ

        また田植花くすんで赭いすいばの穂……

   東の山の襞ごとに

   霧の火むらが燃えあがり

   しばらく鳥も鳴きやめば

   ひとはつかれて泥を一種の飴ともおもひ

   水をぬるんだスープとおもひ

   またたくさんの銅のラムプが

   (一字不明)で燃えるとかんがへながら

   もうひとまはり代を掻く

      ……たてがみを

        白い夕陽にみだす馬

        うなじを垂れて

        しばらく畔の草を食ふ馬……

   檜葉かげろへば

   赤楊の木鋼のかゞみを吊し

   ひとはメフェストフェレス気取りで

   黒い衣裳の手をひろげ

   またひとしきり燐酸をまく

      ……さっとひらめく水けむり

        (一行不明)

        残りの夕陽をみだす馬……

   湿って桐の花が咲き

   そらの玉髄しづかに焦げて盛りあがる

 

 


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