三三七

     鎔岩流

                  一九二五、五、一一、

   

   どうですか、この鎔岩流は

   殺風景なもんですなあ

   噴き出してから二百何年たつさうですが

   かう日が照ると空気の渦がぎらぎらたって

   いたゞきの雪もあをあを煮えるやう

   まるで大きな鍋ですな

   まあパンをおあがりなさい

   いったいこゝを

   県か国かでなぜ公園にせんですかなあ

   えゝえ もちろん山も入れましてです

   薬師岳から鬼ヶ城

   向ふのあのまっ青な火口湖に

   網張小岩井ももちろんですな

   さうしてこゝは特に地獄にこしらえる

   何せ向ふに極楽野てのがありますからな

   えゝえゝこゝはわたしがひとつやりたいですな

   鎗のかたちの鉄柵に

   枯木をあちこち扱ひまして

   岩にも少し黒とセピヤと朱をつかひ

   世界中から集った

   猾るいやつらや悪どいやつを

   死出の山から三途の川

   えんまの庁から胎内潜り

   針の山だの棘ヶ原だの

   はだしでぐるぐる引っぱりまはし

   それで罪障消滅として

   天国行きのにせ免状を売りつける

   しまひはそこの三つ森山で

   オーケストラをやりますな

   第一楽章アレグロブリオははねるがごとく

   第二楽章アンダンテやゝうなるがごとき

   第三楽章なげくがごとき

   第四楽章死の気持ち

   はじめは大へんかなしくて

   それからだんだん歓喜になって

   最后は山のこっちの方へ

   野砲を二門かくして置いて

   電気でずどんと実弾をやる

   G1だなと思ったときは

   もうほんものの三途の川へ行ってるですな

   さあパンをおあがりなさい

   向ふの山は七時雨

   陶器に描いた藍の絵ですな

   あいつがつまり背景です

   はははは

 

 


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