断片(イ)

 

   心象スケッチ

     春谷暁臥

               宮澤賢治

   

   酪塩のにほひが帽子いっぱいで

   温く小さな暗室をつくり

   谷のかしらの雪をかぶった円錐のなごり

   水のやうに枯草(くさ)をわたる風の流れと

   まっしろにゆれる朝の烈しい日光から

   薄い睡酸(すゐさん)を護ってゐる

    …その雪山(ゆきやま)の裾かけて

     撒き散らされた銅粉と

     あかるく亘る禁慾の天……

   「幻(げん)」が向ふに中学生の制服で

   たぶんはしゃっぽも顔へかぶせ

   灌木藪をすかして射す

   キネオラマ式光(ひかり)

 

   断片(ロ)

 

          この世のをみなみな怪(け)しく

          そのかみ帯びしプラチナと

          ひるの夢とを組みなせし

          鎖もわれにはなにかせんとぞ嘆きける)

       羯阿迦(ギヤーギヤ) 居る居る鳥が立派に居るぞ

       羯阿迦 鳥とは青い紐である

       羯阿迦 二十八ポイント五

       羯阿迦

       羯阿迦

       羯阿迦

   (以下空白)

 

 


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